NPO法人-国際エコヘルス研究会   よくある質問お問合せリンク


新版「健康チェック票THIプラス」とその処理ソフト「THIプラス」の応用開発研究----その目的と意義

1-1. THIとは?

THIは、{甘いものが好きですか …………… はい  どちらでもない  いいえ} の3選択肢を○で囲んで答えてもらう。この種の質問が130項目ある。本質問票は健康管理の目的でのみ使われ、個人の結果は秘として本人にのみ知らされる、とフエイスシートに明記されている。

130の項目の回答は、「はい」を3点、「どちらでもない」を2点、「いいえ」を1点として点数化される。1975年の東京の某大企業の男女約6千人の従業員が申告した自覚症状や訴えを集め、精神心理的質問を加えて255問の質問紙を約500人の従業員に実施し、その回答結果を繰り返し因子分析して、最終的に12の尺度をつくった。

各尺度は原則10個の質問から構成される。ある人が10問全部に「いいえ」と答えていれば30点、「はい」と答えていれば10点である。この尺度得点は10から30点に分布することになる。心身症、神経症、統合失調症と専門医が診断した外来患者群によって記入されたTHI票から、12尺度得点によって最もよく正常者を判別する値を設定して、この3疾患を70−80%の正診率で判別することも可能である。 12の尺度と3傾向値の意味内容、平均値等は表1のようである。

1974年に青木・鈴木・柳井によって開発されたこのシステムは、東大式自記健康調査票 THI, the Todai Health Index と名づけられ、和英の単行書もつくられ、主として集団の健康測定・解析のために利用された。現在でも1999年杉並病の原因究明のきっかけをつくり、2003年嘉手納空港周辺住民の騒音影響の測定などに威力を発揮した。THIは個人の心身の状況・健康状態・生活習慣などを多面的かつ客観的に知る目的でも有効に利用できるが、個人適用とその評価の実績はいまひとつで、今後の課題であった。

2002年に、京都府立医大の浅野弘明助教授はデータベースソフト「アクセス」とエクセルを使って、尺度得点の計算と%タイルの算定およびその結果をレーダーチャートと票で描き、記入者にお返しするシステムを作った。これを鈴木・浅野はNPO国際エコヘルス研究会の支援および群馬産業保健センターの調査研究費補助により改善して、新版を応用開発した。基準集団として、1973年東京の商社員男女6千人のそれから、1993年1.1万人の男女地域集団を設定しなおして%タイルの算定と評価を行うことにした。このTHIの新システムを、職域用を「健康チェック票 THI-wp., the Total Health Index for work place」、地域住民用を「健康チェック票 THI-com., the Total Health Index for community people」と名づけた。尺度構成、心身症などの判別分析の部分は旧東大式のときと変らない。

なお、川上憲人教授は、2004年の総説で、日本の職場でよく使われている「心理的ストレス反応の調査票」を表にまとめている。その中にTHIも入っているが、労働科学研究所を中心とする疲労の自覚症状調査票2種とTHIのみが日本の国産の質問紙であるが、残念だがそれ以外の10の質問紙は欧米で開発されたものである。
         

1-2. 新版TH I「健康チェック票 THI, the Total Health Index」の使い方と評価法

質問票の説明を行い、同意を得てから配布し、記入、回収する。個人ごとに回答を入力し、尺度得点等を計算する。計算ソフトが群馬大学の青木繁伸教授(Mac用)と京都府立医大浅野弘明助教授によってつくられている。前者は青木繁伸教授のHPでアクセスできる。後者はデータベースソフトの「アクセス」とTHI処理ソフト「THIプラス」とを購入してWindows で使う。

いわゆる標準集団の性別の尺度得点分布に、ある個人の尺度得点を当てはめて得点の小さい方から何%に相当するかを知って個人の得点の評価を行う。集団の評価には、その平均尺度得点を標準集団のそれと比較して、当該集団の特徴を知るのである。


1-3 新THI「健康チェック票THIプラス」の特徴

1-3-1 本人の考えでの選択肢が選ばれるので本人申告であり、主観の調査である。
1-3-2 健康の主観的評価は、血液、画像情報などと異なり、医学生物学では重要視されない。しかし、あなたは健康ですか?と問われた時の回答(健康、普通、健康でない)が検査値以上に死亡リスクに密接に関係していることは公認の事実である。
1-3-3 人にとって重要な主観の評価を、客観的かつ数量的に扱うことを可能にした。
1-3-4 THIで記入者の健康の10数個の側面が同時に客観的に評価されて提示できる。
1-3-5 記入者本人および保健医療者が結果をめぐって、新しい発見、対処方法の工夫が可能であり、健康管理の自己決定をより適正に行うことが期待される。さらに個人の健康について専門的評価と助言・勧告・指導ができる。
1-3-6 「医学的検査」では何もないが訴えだけは存在する「身体表現性障害者」を扱える。
1-3-7 THIは記入者の心理的な問題の解決、あるいは生活の質(QOL)の向上に役立てられる。
1-3-8 個人の一定の治療・介入・習慣改変の効果判定、経過追跡に利用できる。
1-3-9 一特定集団の評価によって、その特徴の抽出と同定に役立つ。
1-3-10 医師の医療面接の前に記入・評価されたTHIの結果をもとにすれば、より短時間に多面的な健康プロフィルが定量的に表示できるので、効果的な診察ができる。
1-3-11 面接・対話の糸口として役立つとともに聞き漏らしがなく、双方に有利。結果の提示は、単にメイルや〒・FAXによる場合、コメントを加える場合、および面接併用の場合などが想定される。
1-3-12 本人の健康イメージの改変や健康習慣の改善に役立つ。個人の結果の評価をきめ細かく、かつ生活行動・習慣・環境、日々の労働・活動、および高血圧・糖尿病・肥満などの持病と関連づけて行えるようにする。
1-3-11 プライマリケアで患者に適用できる。特に、CAM, Complimentary and Alternative Medicine(統合医学)あるいはクライエント中心のNarrative Medicine のきっかけとしても最適であろう。
1-3-12 「THIプラス」ではPCにより画面で質問の提示と回答ができ、結果が直ちに出てくる方式も含まれているので、いろいろな場面と状況で利用可能である。
1-3-13 IT環境の進展と普及によって、だれでもどこでも手軽に利用できる環境になる。今後、継続的に改善し、目的にあった最新の方式と評価基準で利用できるようにする。

1-4 基準集団の変更について

開発から現在までの基準集団は、1975年東京都心の大手商社員男女各約3千人である。使用目的は「健康管理の一環として」で、社内の診療所が責任実施者であった。この集団の特徴は、男女とも生産年齢人口に限られること、女子は20歳代の未婚者がほとんどをしめること(結婚後はほとんどが退職したため)、男子の職種は営業が主であること、片道通勤時間が平均70分であることなどである。そのためか多愁訴尺度などの得点は女子に高く、得点平均値の男女差が大きかった。

30年が経過したが、質問自体は平易かつ日常の内容と表現のため古く感じることはないものの、回答の選択には時代の変化があることが推測された。そこでこの機会に基準集団を新しく設定しなおすことを検討した。
幸い、1993年の全国の平均的都道府県の一つである群馬県内の平均的な1市1村において、住民票による40-69歳住民合計約1.15万人のTHI実施結果を設定することを検討した。これは、こもいせ研究と呼ばれている。調査の実施に際して、群馬県衛生部の調査研究事業を当該市村で行うこと、および配布・回収は、村は自治会を通して、市は保健センター健康推進員を通して、寝たきりとボケを防ぐための健康アンケートとして行うことを説明し、THI記入提出者にコンピュータ判定評価の結果をお返しする約束で記入協力を要請し、同一人が巡回して回収した。回収率は約92%であった。

この集団の特徴は、住民票による母集団であること、年齢が40-69歳であること、市村対象者各7,064 と 4,501人、市は中心市街地を選定、村は全村を対象とし、職業は、雇用者が男女各55と33%、自営業者が各33と31%、農林業者各0と9%、無職が各3.7と28%であった。男女均等に各家庭で記入されたこと、入院者などは除かれたこと、などである。

この集団のTHI結果の尺度得点などの特徴は、1)例えば代表的健康尺度の多愁訴の性年齢別平均尺度得点が女子は大幅に低く、男子はわずかに高く、従来あった男女差が、縮まる方向に変化していることが判明した。これは時代差および対象者の年齢差と推測された。こうした変化は、雇用者の40%を女子がしめることや、社会的男女差縮小の方向を考慮すればありうる変化と思われた。2)多くの尺度の得点分布は低得点の方によりかたよっていた(参照)。つまり「いいえ」応答が多くなったことも新しい傾向である。ただし、尺度得点の平均値には従来と比べてあまり大きな変化はなかった。

そこで、新しく1993年の地域男女集団に基準集団を設定し直して、個人評価の%タイルのみを更新することにした。従って、12の尺度、尺度得点の素点、尺度得点からの3疾病判別分析、判別値などは全く従来と変っていない。ただし、本報告書のTHI評価はすべて従来の基準集団によるデータであることを留意する必要がある。 2004年以降は、新版のTHI処理システム「THIプラス」で、新基準集団の%タイルによる評価が採用されている。

「THI12尺度と判別値」を参照してください。